また終わるために

いっしょにすごしたときめき

誠実がこの地上では不可能であるから

誠実であろうと思ったから、あらゆる手だてを尽してその炎を煽ぎ立てて守った。それなのにしばらくすると、炎はいつの間にか人しれず消えていたのである。

しかしトニオ・クレーゲルはなおしばらく冷え切った祭壇の前に佇んで、誠実というものが、この地上では不可能であることを見て、驚きと失望とを味わっていたが、やがて肩をすくめて、それから自分の道を歩いて行った。

 

 

  トーマス・マン