また終わるために

いっしょにすごしたときめき

【小説】嵐の女神

まきな、ごめんね、ごめんね・・・・・・。

深夜の車内はひんやりしていて、空間というより、空洞のように感じた。母親の声が涙にぬれて、ごめんねを繰り返す。

左腕に包帯が巻かれていて、これが母親の腕か、と思った。私は眠い深夜に父親の車に乗せられて父親の運転で、警察署に向かった。煌々とした警察署の無機質なあかりは、私をほっとさせるというよりはむしろ、私の孤立を容赦なく照射する光だと思った。母親は涙を流してめそめそしていた。父親の怒号。

母親は父親からむごたらしい処遇で夫婦関係をつとめていた。父親からのDVと怒号。涙を流して、悔しいながらも子供を守り、私にはやさしさをつとめて変わらないままで与えようとしていた、献身的な女性だった。美しい、思い出の中だと少なくとも私の母親はそうだった。

ごめんね、ごめんね、まきな・・・・・・自殺なんてしてごめんなさい・・・・・・。

母親の左手首にその縫い跡が残っている。自分の気持ちなんて、もう忘れた。左手首を見せてもらうと、縫い跡があって・・・・・・、それは私が母親に飛び込んだ証拠なんだと思うようにした。

嵐の女神はとても傷つけられてしまっていた。私にはどうしてもなにもできなかった。子供だったから。今もきっと、嵐の女神は、そのまま嵐の女神だ。

だけど、嵐の後のおかあさんのにおい。これだけは私の手元にある。

過ぎ去った日だとしても、もう、身内は一度亀裂の入った関係になれば、星より遠い人になる。嵐の女神とも、そう、たぶん。