また終わるために

いっしょにすごしたときめき

【小説】T周辺 ~嘘と伝聞~

マフィは言った。私はなんでも決めつけるの。そうして心の平安を得るの、と。学者肌のヴィーは、「それは株式用語で予断の罠というのだよ」という見当違いの返事をした。マフィは、私と目を合わせてやれやれ、と肩をすくめた。

私たちはいわゆる機能不全家庭で育った同士の"愛情に関して育ちの悪い"人(ということになる?)だ。マフィはすぐに結論を出して、もう葛藤にはうんざりしてるの!と神様(そういう存在がいればだが)にクレームを叫ぶし、私はすぐに落ち込んで、割とこだわりの強いところがある。まともなのは、ヴィーだけだ。ヴィーは、口に剃刀を入れて歯みがきの所作をしたりなどしないし、薬の副作用でバランスを崩して醜態を晒しつつ付き纏いなどもしない。ヴィーだけだ、ちゃんと両親から適切に取り扱われて愛を受けて大人になったのは。トモエはどうだろう?そのオリエンタルな顔立ちで、あまたの男性を虜にしてきた、マフィにない記号が散りばめられた天使。だけど、私はマフィが好きだ、トモエも好きだ、気の利いた冗談をよく話す。しかも頭もよく、それは彼女が元々持って生まれた天性の努力という能力で培われたセンスの集合体だった。マフィは……待つことに疲れている、言うなれば人生のバス停で乗るべきバスのなかなかこないのを待ちくたびれてしまっていて、言葉が干からびてしまったんだ。待つことこそ、人を雄弁にするものの、彼女の言葉が全て乾いているのは、そこになんの物語も与えられなかったからである。

これが、ヴィーが私に打ち明けた、人物評。私はじつはヴィーがマフィに片恋しているのを知っていた。だから、少しの好奇心に動かされて、後をついていってみた。言葉をかけた。

「ヴィーの人物評は、言い得て妙だと思うなあ、とくにマフィについて」

「いや、じつは僕としてはまだマフィについてはまとまってないんだ、彼女はなかなか自分のことを話さないしね」

「トモエはマフィを、関わるようになってから退屈しなくなった、と話していたよ。2人、仲良いのは自明だけども、マフィはまだ不安定なところがあるようにみえる。私は老婆心ながらそれをハラハラと見守ってるしかないんだよ。だから、ヴィー、もっとマフィについて思うことを話あえたらいいなと思うんだよね」

ヴィーは、少し顔を強ばらせた。マフィについて、彼も混乱しているのだろう……なんというか、マフィには、エネルギーの循環が上手くいってない一面があるから。

それをなんと表現して、一元的に言語化できるかを考えたらしい。しかし、それこそが最もマフィの不可解さを深め、私たちは迷宮入りする……マフィの魅力は、いうなればこれだ。

「マフィは……」

ヴィーが口をつく。

「綺麗だよ」

そうだね、ヴィー。マフィは、冬休みの朝に積もった薄雪のようよ。真っ白できれい。きれいすぎて、背中が凍るのよ。

私は、そう思ったけど、口を噤んだまま、それは言わずにおいた。