また終わるために

いっしょにすごしたときめき

【小説】トモエの心臓 ~伝聞と嘘と、本当の話~

トモエはバイ・セクシャルだ。女性という生物学的定義があり、戸籍の上でも女、とされているものの、恋愛パートナーには女性も含まれるし、もちろん男性も含まれる。トモエにとっては、相手の性別よりも、自分がその相手にどのくらい憧れと焦燥を抱くかということが大切らしい。人はそれを恋と呼ぶのだから、トモエは間違いなくバイ・セクシャルである。

トモエは、マフィより13歳年上だ。しかし、10歳は若く見える……つまり、23、24くらいには。それは不惑を前にしたトモエの間違いのない達成である。

トモエは私に言った。

「私の若い頃は、歳上ってだけでその相手を大嫌いになったりしてたな」

私もそうだ、と同意した。私はトモエと同い歳だ。「そう、なんだかね、自分の若さを担保にして、歳上の老醜を跳ねつけようとしてたところはある。その頃の私にとって、人生の先輩というのは、生活に薄汚れた存在で、しかも"裏切られた青春の姿"だったから」

マフィが話に入ってきて、そうだよ!と声を上げた。私は大人が嫌いだ、ウザいもん、と。

ダサいこと言うなよ、と私はたしなめた。あなたのその発言や、たとえば私たちの前で自分をいたぶってるような所作は、いわばイキった中学生が学校の廊下の窓ガラスを割って回るダサさと変わりないのよ、と。ただ、時代の流れでそういう表立って外側にやるせない力の発散が行かなくなった代わりに自分に向いてるだけで、原理は同じだよ。結局私たちの前で口の中に剃刀入れて歯みがきするんでしょ。

「なんなの?そんなの私の勝手だし」マフィがイラついて私に反論した。

「そう、勝手。窓ガラス割りも、カミソリ歯みがきもね。それでいつまでも可哀想に自分をいたぶって、気持ちよくなってればいいよ」

私は少し辛辣だった。もうこの歳になると、若さを眩しいものだけには思えない。眩しいには眩しいが、そこに私独自のシミが落ちる。いうなれば、嫉妬かもしれない。

トモエがハハハハ、と笑い声をあげた。テレビに出てくるみたいな、模範的なハ、の音。もしここに、ヴィーがいたら同じ反応をしたかもしれないし、しなかったかもしれない。ヴィーは今、どこにいるんだろう。