また終わるために

いっしょにすごしたときめき

【小説】電話、電話、電話・・・・・・ ②

「この店にお座敷の席があるのは、シーシャの提供もされてるからみたいですね」と千裕さんは言った。ほら、と言って壁の案内書きを指さした。「”フッカー”?」私は目に飛び込んできた文字のまま口にした。千裕さんは「フッカーというのはヒンディー語でシーシャのことですよ」と答えた。なるほど。

千裕さんは吸ったことありますか?と訊いてみる。はい、ありますよ。マキノさん、ありますか?

「吸ってみませんか?」と、千裕さん。

「え、でも、たばこって私は吸ったことないから・・・・・・」

「だからこそですよ」

「けれど、私、今日はちょっと持ち合わせがないから・・・・・・」

僕がおごりますよ、と千裕さん。えっ、と反応する間もなく、すみませーん!と千裕さんが声を出した。ラズベリーのシーシャ、ひとつ。はい、と言って店員が下がった。

「私、本当にシーシャって吸ったことないから・・・・・・」と、私が改めて断ると、教えますよ、と千裕さんは言った。

シーシャは、なんだか入り組んだ装置のような体裁でやってきた。

「さあ、マキノさん」千裕さんが差し出してくる。なんだか細長いくちばしがホースのようなものと繋がっている。

「私、方法がわからないから……」

「じゃあ、僕が吸ってみせますから、真似してみてください。いいですか?鼻腔に含ませて……喉は閉じて、そのまま口から吐き出すのです」

ふわり、と千裕さんの口元から煙が出てきた。

さあ、と差し出された。え?シーシャはひとつしかなく、これは、千裕さんの吸いさしで……。

千裕さんが真っ直ぐに私を見詰めて、目がうるんでにこり、としている。整った顔立ちだから、お酒で上気しているとよけいに美しく見える。

私は、シーシャのくちばしに唇をつけていた。好奇心だったが、シーシャへなのか、千裕さんの唇へなのか。

「そうそう、上手ですね、マキノさん!」

千裕さんが喝采した。

私はむせることもなく、ラズベリーを鼻腔いっぱいに味わった。爽やかな酸味が少しと、甘い苺のような香り。ふう、と吹くと、口元から煙が出てくる。しかし、別に煙たい感じはしない。

千裕さんの若さが沁みてくるような気がした、私の肺と、鼻腔いっぱいに。むせずに味わえるだろうか?