また終わるために

いっしょにすごしたときめき

【小説】もう愛されないだろう

父親が、横たわってぐったりしている母親を足蹴にした。泣きつかれて、台所の床でぐったりした母親が、ぎゃっと声を上げて泣いた。

母親は夜中に私を置いて出て行った。部屋中の電気はついていて、充分明るかった。よそよそしい電灯の光に肌がひりつきそうな孤絶を感じた。もう帰ってこないかもしれない、私はこの先もう愛されないのだろう、愛することはあっても。

数分後に父方の祖母が顔を出した。忍び込んできたのか、物音はなかった。

「あのキチガイめ、どこ行った」

吐き捨てる声色で、言葉を投げ捨てて、そうしてまた祖母が出て行った。

泣きたい気分もなく、ただ眩しすぎる電灯に、私はなにかを忘れてしまいそうだった、とっても大切なものをなくしたことすら、忘れてしまうような。そういう光。

充分明るかった。夜中なのに。父親は車で母親を探して回った。大嫌い、もう父親なんて、母親に暴力ふるうなら、次は私が殺してやろうと思ったのに。なんで探すんだろう。殴るなら、もう探さないほうがいいじゃないか。

なんで、なんで、泣いてまでついてくる人を父親は殴ったり蹴ったりするんだ?私という愛の弱者の前で。お母さん、どうか私と一緒に逃げてください、どこへでもついていくから。逃げよう。その一言がどうしても言えなくて苦しい。私は10歳。もう愛されないだろう、愛することはあったとしても。